油脂の基本

植物油脂のけん化価(鹸化価)94種類の一覧とゼロから理解する計算方法

けん化価(鹸化価)とは?

けん化価とは、「油脂やワックス1gを石鹸にするのに必要な水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や水酸化カリウム(苛性カリ)の量(mg)」のことです。けん化とは、油脂やワックスなどのエステルを、水酸化カリウムなどのアルカリを使ってアルコールと酸の塩に加水分解することをいいます。その時にアルカリがどれくらいの量必要なのか?という数値がけん化価です。けん化価は特に、手作りで石鹸を作る時にとても大切な数値になります。水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は固形石鹸を作る場合、水酸化カリウム(苛性カリ)は液体せっけんを作る場合に使われます。ここではけん化価の解説と、各油脂のけん化価を紹介していきます。

目次

  1. 94種類のけん化価一覧
  2. けん化をゼロから理解する:油脂のけん化価の計算方法
  3. 手作り石鹸のけん化価の計算方法



94種類の油脂のけん化価一覧

まずは、各植物油脂のけん化価を紹介しています。浸出油の場合は、ベースとなっているオイルの数値をご覧ください。例えば、セントジョーンズワートオイルの浸出油で、オリーブオイルがベースの場合、オリーブオイルのけん化価を参考にします。

※注意点※

けん化価は、同じ油脂でも抽出方法や原材料の地域、商品やロットによっても変化するのでご注意ください。ここでの数値は、各油脂の詳細ページで示している脂肪酸組成の場合の数値から算出しています。(リンクのないものも順にアップしていきますのでお待ちください。)数値は、各ページに記載しているように、行政機関や論文、その他文献を参考にしています。同じ種類のオイルでも、脂肪酸組成などが異なれば、異なるけん化価になります。ご自分でけん化価の計算をしたい場合は、このページの下の「けん化価の計算方法」を参考にしてください。

植物油脂 鹸化価(NaOH) 鹸化価(KOH)
アボカドオイル 137.6 192.7
亜麻仁油|フラックスシードオイル 137.5 192.5
アルガンオイル 137.6 192.7
あんず油|アプリコットカーネルオイル 137 191.8
アンディローバオイル 139.2 194.9
インカインチオイル 137.4 192.4
ウクウババター 168.2 235.5
えごま油|しそ油|ペリラオイル 137.7 192.8
オリーブオイル 137.4 192.4
オレンジシードオイル 139.2 194.9
カシューナッツオイル 135.8 190.1
カメリアオイル 138.1 193.4
カメリナオイル 134.6 188.5
カレンデュラシードオイル 137.8 192.9
キウイシードオイル 137.7 192.7
キューカンバーシードオイル|キュウリ油 137.6 192.7
桐油 137.8 192.9
グァバシードオイル 137.3 192.3
ククイナッツオイル 137.4 192.3
クプアスバター 137.1 191.9
クランベリーシードオイル 137.6 192.6
クルミ油|ウォールナッツオイル 137.3 192.2
グレープシードオイル|ブドウ種子油 137.3 192.2
グレープフルーツシードオイル 146.2 204.7
ケシ油|ポピーシードオイル 137.3 192.7
コクムバター 135.9 190.2
ココアバター|カカオバター 138.8 194.3
ココナッツオイル|ヤシ油 178 249.2
ごま油|セサミオイル 137.3 192.2
小麦胚芽油|ウィートジャムオイル 136.8 191.6
米油|米ぬか油|ライスブランオイル 138.5 193.9
コーン油|トウモロコシ油 137.6 192.6
ザクロオイル|ポメグラネイトシードオイル 137.5 192.5
サボテンオイル|ウチワサボテンオイル 137.7 192.7
シアバター 136.8 191.5
シーバックソーンオイル(果実) 144.9 202.9
シーバックソーンオイル(コンプリート) 141.9 198.7
シーバックソーンオイル(種) 137.8 193
シシンブリウムオイル 132.9 186
スイカ油|ウォーターメロンシードオイル 137.7 192.7
スイートーモンドオイル 136.8 191.5
ストロベリーシードオイル|イチゴ油 136.9 191.7
大豆油|ソヤオイル 138.5 194
タマヌオイル 140.7 197
チアシードオイル 137.9 193.1
チェリーカーネルオイル 136.7 191.4
月見草オイル|イブニングプリムローズオイル 137.5 192.5
椿油 136.7 191.4
トマトシードオイル 138.3 193.6
菜種油|レイプシードオイル 135.9 190.3
ナツメグバター|ニクズク油 164.1 229.7
ニームオイル 137.1 192
ニガウリ油 137.2 192.1
バオバブオイル 138.9 194.4
パッションフルーツシードオイル 137.5 192.5
ハトムギ油|ヨクイニン油 137.5 192.5
パパイアシードオイル 137.6 192.6
ババスオイル 173.6 243.1
パーム油|パームオイル 141.8 198.6
パーム核油|パームカーネルオイル 171.6 240.3
パンプキンシードオイル 137.3 192.2
ピーチカーネルオイル 136.6 191.2
ピーナッツオイル|落花生油 135.7 190
ピスタチオオイル 138.2 193.4
ひまし油|カスターオイル 129.9 181.8
ひまわり油(高オレイン型)|サンフラワーオイル 136 190.3
ひまわり油(高リノール型)|サンフラワーオイル 137.1 191.9
ブラジルナッツオイル 138.5 193.9
ブラックカラントオイル|カシスオイル 137.6 192.7
ブラッククミンシードオイル 137.9 193.1
プルーンシードオイル|プラムカーネルオイル 136.7 191.4
ヘーゼルナッツオイル 136.5 191.1
ペカンナッツオイル 137 191.7
紅花油(高オレイン型)|サフラワーオイル 136.9 191.6
紅花油(高リノール型)|サフラワーオイル 137.2 192.1
ヘンプシードオイル 137.1 191.9
ホホバオイル 65.2 91.3
ボラージオイル 136 190.4
マカダミアナッツオイル 139.3 195
松の実油|パインシードオイル 137.3 192.2
マスタードオイル 124.8 174.7
マルラオイル 136.9 191.7
マンゴーバター 136.8 191.5
ミルクシスルオイル 137.7 192.8
ムルムルバター 167.6 234.6
メドウフォームオイル 121.4 170
綿実油|コットンシードオイル 139.5 195.3
モリンガオイル 133.3 186.6
柚子油|ゆずオイル 138.4 193.8
ライムシードオイル 140 196
ラズベリーシードオイル 137.1 192
りんご油|アップルシードオイル 137 191.7
レモンオイル 139.1 194.7
ローズヒップオイル 137.2 192




けん化をゼロから理解する:油脂ごとに調べる方法

けん化価は、肌に使う石鹸をつくるにはとても大切な数値ですが、実際商品やロットによって常に変動する数値です。けん化価は、オイルに含まれる脂肪酸の種類と量が関係していて、それらは同じオイルでも少しづづ違うからです。一般的に言われているけん化価というのはありますが、ばらつきがあり、実際自分の手元にあるオイルの正確なけん化価を示しているわけではありません。ここでは細かくけん化価を調べたい人や、化学が苦手でもゼロから理解したい人のために細かく説明しています。あるアーモンドオイルのけん化価を例に挙げています。

※用語注意※

  • 苛性ソーダ=水酸化ナトリウム=NaOH
  • 苛性カリ=水酸化カリウム=KOH

※注意点※

グリセロール(グリセリン)と脂肪酸がエステル結合している「油脂」のけん化価を調べる方法です。石鹸に使用するほとんどがこの油脂に当てはまりますが、ホホバオイルやみつろうのような「ワックス」に分類されるものは計算方法が異なります!

1. 使用したい油脂の含有脂肪酸を調べる

油脂はいくつもの脂肪酸で成り立っています。その脂肪酸の種類と含有量でその油脂の特徴が変わってきます。脂肪酸がどのような割合で含まれているかは、同じ種類の油脂でも商品やロット、季節によって変動があります。まず、手元にある油脂の脂肪酸組成をチェックしてみてください。※脂肪酸の基本を知りたい場合は「脂肪酸とは?」のページへ。

例をこの四角の中で説明していきます。あるアーモンドオイルの脂肪酸の割合は・・・

オレイン酸80%、リノール酸14% パルミチン酸6%

2. 各脂肪酸の分子式を調べる

含まれる脂肪酸が分かったら、その脂肪酸の分子式を調べます。※脂肪酸のリストと分子式・分子量は「脂肪酸とは?」のページでチェックできます。

  • オレイン酸 C18H34O2
  • リノール酸 C18H32O2
  • パルミチン酸 C16H32O2

3. 各脂肪酸の分子量を求める

次に、脂肪酸の分子式から分子量を求めます。(分子量は自分で求めなくても調べられますが、ここでは細かく説明しています。)※同じく、脂肪酸のリストと分子式・分子量は「脂肪酸とは?」のページでチェックできます。

原子量の決まり: C=12,  H=1, O=16, Na=23, K=39

  • オレイン酸 C18H34O= 12×18+34+16×2 = 216+34+32 = 282 
  • リノール酸 C18H32O= 12×18+32+16×2 = 216+32+32 = 280
  • パルミチン酸 C16H32O= 12×16+32+16×2 = 192+32+32 = 256

→オレイン酸の分子量=282、リノール酸の分子量=280、パルミチン酸の分子量=256

4. その油脂に含まれる、脂肪酸平均分子量を求める

次に、調べたい油脂に含まれる脂肪酸の平均分子量を求めます。

公式①

脂肪酸の平均分子量=各脂肪酸の分子量x含有%を全て足したもの

ここで選んだアーモンドオイルの場合、1より、オレイン酸80%、リノール酸14% パルミチン酸6%だったので・・・

282×0.8+280×0.14+256×0.06 = 225.6+39.2+15.36 = 280.16

このアーモンドオイルに含まれる脂肪酸の平均分子量は約280

5. その油脂自体の、平均分子量を求める

油脂に含まれる脂肪酸の平均分子量が分かったので、次は油脂自体の平均分子量を求めます。下公式で油脂の分子量が求められます。

公式②

油脂の分子量(M)=脂肪酸の平均分子量x3+92(グリセリンC3H8O3の分子量)-54(脱水縮合3H2Oの分子量)

fat1図のように、油脂はグリセリン1個に対し、脂肪酸3個が結合して作られています(油脂の分子量=グリセリン1個(C3H8O3)+脂肪酸(R-COOH)のトリエステル)。ここで注意したいのは、グリセリン1個と脂肪酸のトリエステルはエステル結合していることです。つまり、グリセリン(C3H8O3)1個と脂肪酸(R-COOH)3個のグループから3H2Oがマイナスされ(=脱水縮合して)結合しています。グリセリン分子量は(C3H8O3=12×3+8+16×3 =) 92ですが、脱水縮合で3H2O(分子量= 54)がマイナスになります。その結果上記のように、油脂の分子量=脂肪酸の平均分子量x3+グリセリンの分子量(92)-脱水縮合の分子量(54)という公式になります。※エステル結合に関しては、「脂質の分類」のページで詳しく説明しています。

ここで選んだアーモンドオイル自体の平均分子量を調べます。

280×3+92-54 = 840+38 = 878

→このアーモンドオイルの平均分子量は878

6-a. けん化価を求める(苛性ソーダ=水酸化ナトリウム=NaOHの場合)

けん化価とは、油脂1gを石鹸にするときに必要となるNaOH又はKOHの量(mg)を言います。NaOHは固形石鹸を作るのに使われ、そのけん化価は下記の公式で求められます。

公式③

油脂のけん化価(NaOH)=120÷油脂の平均分子量x1000

NaOHで固形石鹸を作る場合、油脂1分子に対して、NaOHは3分子反応します。NaOHの分子量は、NaOH = 23+16+1 = 40 となります。つまり油脂1分子の分子量に対し、NaOHが3つ分の40×3 = 120反応します。

ここでのアーモンドオイルの場合、

油脂のけん化価(NaOH)=120÷878×1000 = 136.674・・・

→けん化価(NaOH)は約136.6

6-b. けん化価を求める(苛性カリ=水酸化カリウム=KOHの場合)

けん化価とは、油脂1gを石鹸にするときに必要となるNaOH又はKOHの量(mg)を言います。KOHは液体せっけんを作るのに使われ、そのけん化価は下記の公式で求められます。

公式④

油脂のけん化価(KOH)=168÷油脂の平均分子量x1000

KOHで液体石鹸を作る場合、油脂1分子に対して、KOHは3分子反応します。KOH の分子量は、KOH = 39+16+1 = 56 となります。つまり油脂1分子の分子量に対し、KOHが3つ分の56×3 = 168反応します。

ここでのアーモンドオイルの場合、

油脂のけん化価(KOH)=168÷878×1000 = 191.343・・・

けん化価(KOH)は約191.3

オイルのけん化価を手作り石鹸のレシピへ応用

ここからは、調べたけん化価をもとに、実際の手作り石鹸のレシピに応用させていく方法です。手作り石鹸には数種類の油脂を混ぜるので、各油脂のけん化価と使う量からNaOHまたはKOHの量を算出します。

7. 複数のオイルを混ぜる手作り石鹸のけん化価

手元にある油脂のけん化価が分かったら、実際に石鹸作りに応用させます。例えば、オリーブオイル160g・ココナッツオイル100g・パームオイル80gを使って固形石鹸を作るとします。この場合に必要なNaOHの量を計算します。※ここでのけん化価(NaOH)は、オリーブ135・ココナッツ184・パーム141 とします。

各油脂ごとに必要なNaOHの量を計算し、それを合計したものが全体で必要なNaOHの量になります。けん化価は「油脂1gを石鹸にするときに必要となるNaOH又はKOHの量(mg)」なので、NaOHの単位をgに合わせるためにけん化価を1000分の1にします。それから必要な油脂のg数を掛けます。

公式⑤

けん化価(NaOH) ÷ 1000 x 使用する油脂の量(g) = 各油脂に必要なNaOHの量(g)

石鹸レシピに当てはめると・・・

135÷1000×160 + 184÷1000×100 + 141÷1000×80

= 21.6+18.4+11.28 = 51.28g

これで、この石鹸レシピに必要なNaOHの全体量が51.28gとわかりました。※鹸化率100%の場合です。

8. けん化率を下げる

けん化率とは、どの程度石鹸にするかの割合です。けん化率100%は、完全に油脂が石鹸になっているという意味です。市販の商品は100%で作られていますが、通常手作り石鹸を作る時は、安全面も考え、少しディスカウントして(=けん化率を下げて)計算します。そうすることで、油脂分が石鹸の中に残り、肌にうるおいを持たせることにもつながります。

  • 鹸化率100% NaOHKOHが残っている可能性があるのでお勧めしません。
  • 鹸化率90-95%  さっぱりした使い心地の石鹸
  • 鹸化率85-90%  しっとりした使い心地の石鹸
  • 鹸化率85%未満 べとべとしたり、柔らかくなりすぎてしまいます。

公式⑥

使いたいNaOH/KOHの量 = 鹸化率100%の時に必要なNaOH/KOHの量 x 望む鹸化率

この石鹸レシピの場合、前項までに鹸化率100%の数値が分かっています。その鹸化率を90%まで下げるとすると・・・

51.28 x 90% = 46.152

→90%の鹸化率にした場合必要な水酸化ナトリウムは約46g  

9. 更に苛性ソーダの種類をチェック

購入したNaOH/KOHの純度が何%なのかもチェックしましょう。もし、100%や99%純度の場合、そこまで関係ありませんが、95%や85%等といった純度の場合、必要な量を測っても実際のNaOH/KOHの量はその95%若しくは85%になってしまいます。NaOH/KOHが少なすぎると、石鹸の中に油脂が残りすぎてべたべたしたり固まらなくなる可能性があります。

公式⑦

必要なNaOH/KOH量 ÷ 純度% = 実際に測るNaOH/KOHの量

この石鹸レシピで95%純度の水酸化ナトリウムを使用する場合、

46.152 ÷ 95% =  48.581・・・

→けん化率90%で更に95%の水酸化ナトリウムを使用した場合に、実際測るNaOHの量は、約49g。

10. 最後にpH値をチェック

けん化率をディスカウントすれば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが石鹸内に残っている可能性は少ないですが、石鹸が出来上がったあとに気になったら、pH値をチェックして確認することができます。pH試験紙というものを使います。

アルカリ性に傾きすぎていたら、肌に使用する石鹸としてあまり向いていません。刺激が強すぎてしまいます。手作り石鹸のpH値は弱アルカリ性の7~10位が理想です。肌のpH値は5.5位の弱酸性なので、それに近いほど刺激が少ないものになります。あまり低すぎても、今度は洗浄力が弱まってしまいます。JIS規格では石鹸のpH値は9~11です。そのため、実際に売られている商品はよりさっぱりしていて、手作りの石鹸はよりしっとり刺激が少ないものになります。




次はこれを要チェック

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