Yoga

肉体だけではない、私たちの体について|ヨーガ・アーユルヴェーダ・インド哲学

タットヴァボーダ No.17-25

ヨーガやアーユルヴェーダの理論のもととなっているインド哲学「ヴェーダ」の起源は約5000年前にさかのぼります。宇宙の法則、私たちが生きている世界の本質が詰まっています。その一部をわかりやすく初心者用に説明しているものがタットヴァボーダ(Tattva Bodha)です。ヨーガ、アーユルヴェーダのもととなる基本的な考え方を理解するにあたって、とても重要です。このサイトでは、そのタットヴァボーダの内容をサンスクリット語の訳に沿いながら説明しています。グリーンで囲われている部分がサンスクリット語の日本語訳です。ここでは17章から25章にあたる、私たちの体についての説明しています。タットヴァボーダの全体像について知りたい場合は下記をご覧ください。

インド・ヨーガ哲学

目次(17章~25章)|私たちの体について



私たちの3つの体について

これまでのタットヴァボーダの内容とのつながりを復習します。まず、タットヴァボーダのテーマがあり、それを学ぶために必要な資質を説明しました。そしてタットヴァボーダの一番のテーマである、アートマー(自分自身、真我)にはどんな特徴があるのかを前の章で説明しました。その特徴の一つが、「3つの体以外のもの」です。その3つの体について説明していきます。

No.17 |グロスボディーとは?

グロスボディー(肉体)とは何でしょうか?パンチーカラナのプロセスからできた五大元素によって構成され、過去の良い行いの結果から生まれ、喜びや悲しみなどの経験をする場所で、存在・出現・成長・成熟・衰え・死、という6つの変化の対象となるものです。

解説

私たちが一番知覚しやすいグロスボディ=肉体についての説明です。この章の前のアートマーの記事で説明しているように、肉体は、死んだらなくなるので、永遠のものではありません。つまり、アートマーではなく、本当の自分ではないということです。では、具体的には何なのか?をここで説明しています。

永遠のもとの永遠でないもの

五大元素とは?

ヴェーダの世界では、肉体を含めすべてのものは五大元素からできていると考えられています。五大元素とは、空(空間)・風(空気)・火・水・地(土)です。日本語ではいろんな訳し方がありますが、定義は同じです。五大元素をグロスボディー(肉体)に当てはめるとこのようになります。

  1. 空(空間、Space)|肉体が空間の中に存在します。体内や細胞一つ一つにも空間があります。
  2. 風(空気、Air)|呼吸は空気です。
  3. 火(Fire)|体温、消化は火の性質を持ちます。
  4. 水(Water)|体内の水分は水の性質です。
  5. 地(土、Earth)|骨や、体内のミネラルなどが地の性質です。

五大元素に関しては、45章以降でどのようにしてできたか、アーユルヴェーダの項目では特徴を詳しく説明しています。

世界はどのようにできたか 五大元素とは

パンチーカラナとは?

五大元素はパンチーカラナのプロセスを経てできます。簡単に説明すると、五大元素が混ざり合って可視化(粗雑化、実体化)される工程のことです。それについては45章以降で詳しく説明されていきます。ここでは、パンチーカラナのプロセスを経た五大元素が、肉体を構成しているということだけ理解してください。

どうして一人ひとり違うのか?

肉体は全て同じ五大元素からできているのに、肌の色、性別、背の高さなど、誰一人として同じ人はいません。その理由は、自分の過去の行いの結果によって、今世、この体として生まれているからです。なぜ日本人として生まれたのか、なぜ女性(男性)として生まれたのか、なぜこの体質で生まれたのか、、、どんな小さなことも、過去の行いの結果です。その体でカルマを全うするために今世その体で生まれています。それを宇宙の法則と言ったり、神によってこのように生まれた、などと言われたりもします。人間に生まれてきたこと自体が、過去の良い行いの結果です。というのも、人間には動物と違い自由意思があるからです。どんなに苦しい環境でも、人間はそれを変えられる自由意思があります。

経験の場所とは?

肉体は、喜びや悲しみを体験する場所と言っています。例えば、ショッピングに行くと、お会計の工程はカウンターで行われます。店内で服をいくら見ても、購入するカウンターが閉まっていたら、洋服を買って帰ることはできません。商品を持っていき、お金を払い、袋に入れてもらうまでの全ての工程がカウンターを通じて行われます。それと同じように、私たちは「肉体」というカウンターを通さないと経験ができません。ショップのクローズの時間は、肉体でいうと寝ている時間です。ショップが閉店になることが、肉体でいう死に当たります。

グロスボディが経験する6つの変化

どんな人も、肉体は次の6つの変化をしていきます。

  1. 存在|母親のおなかの中にいる状態です。
  2. 出現|おなかの中から生まれます。
  3. 成長|体は大人になるまで成長していきます。
  4. 成熟|体が大人になったあとも、内面が成熟していきます。
  5. 衰え|しわができたり、思うように動けなくなったり、老いていきます。
  6. 死|最後に肉体の死を迎えます。

ヴェーダンタの考えでは、肉体が死を迎えても、また新しく生まれ変わります。そのため、死は洋服を着替えるようなものでもあります。もしくは、一定期間借りていた家を引っ越すような感覚です。

この(THIS)と言えるもの、私の(MY)と言えるもの

私たちは、肉体を自分自身と勘違いしてしまいがちです。そこからいろいろな悩みや苦悩が始まります。もう少し細かったら・・もう少し若かったら・・もう少し目が大きかったら・・・肉体を自分と同一視してしまっているので体のことで悩みが生まれます。肉体は自分自身ではなく、一時的に借りているものです。アートマーの記事でお伝えしたように、自分自身、本当の私は、肉体のように限られた時間ではなく、永遠に存在しています。また、どんな場所にも存在します。「この」体、「私の」体と言える時点で、体は目撃される対象であって、「I=私」である目撃者そのもの(自分自身=アートマー)ではありません。これは体以外のすべてのものに当てはまります。「この」ペンは、私ではないように、「この」体は私ではありません。



No.18 |サトルボディーとは?

サトルボディー(サトル体)とは何でしょうか?実体化されない五大元素によって構成され、過去の良い行いから生まれ、喜びや悲しみを経験する道具であり、17の要素で構成されています。17の要素とは、5つの感覚器官・5つの行動器官・5つのプラーナ・マインド・知性です。

解説

グロスボディーを構成する5大元素は、パンチーカラナの工程を経て実体化された5大元素でした。そのため、私たちが見て触ることができます。サトルボディー(かすかな体)の5大元素は、実体化される前の5大元素でできているので、私たちには見えません。私たちは、他人を見たときに、グロスボディーである体を触ったり見たりすることができますが、その人の心は目で見たり触ったりできません。しかし、こんなことを思っているかなと、心を感じることはできます。その部分がサトルボディーです。サトルボディーがグロスボディーを生かしています。サトルボディーがグロスボディーから切り離されたとき、私たちは死んだと表現します。

過去の良い行いの結果

グロスボディーの解説と同じように、サトルボディーも過去のよい行いの結果からできています。人間に生まれること自体が、過去に良い行いをした結果です。そして自分の良い点も悪い点も、全てが過去のひとつひとつの行いの結果からできています。過去の行いはみんな違うので、今の私たちも誰ひとりとして同じ人はいません。

喜びや悲しみを経験する道具

グロスボディーは経験する「場所」でした。マインドや知性が含まれるサトルボディーは、喜びや悲しみを経験する「道具」です。グロスボディー自体が、刺された痛みや勝利の栄光を感じているわけではなく、マインドがそれを知覚しているということです。今手に持っているスマホは、あなたに持たれていることを知覚していません。それはサトルボディーがないからです。一方あなたはグロスボディーを使ってスマホを持っていることを、サトルボディーを通じてわかっています。夢も見ていない深い睡眠の時は、私たちは何かを経験している記憶はないかと思います。それはマインドや知性の機能が一時的に止まっているからです。

サトルボディーを構成する17の要素

下記の17の要素がサトルボディーを構成していて、実体化されていない5大元素で作られています。そのため、全ては肉体の属する特定の臓器などではなく、実体化していない見えないエネルギーのようなものです。

  • 5つの感覚器官 ※次の章から詳しく説明しています。
  • 5つの行動器官 ※次の章から詳しく説明しています。
  • 5つのプラーナ(生理的機能)
  • マインド(心)
  • 知性(intellect)

17の要素プラス2つの要素
テキストには17の要素となっていますが、宗派によってはさらに2つの要素をプラスして考えます。

  • 記憶
  • エゴ

マインド、知性、記憶、エゴの4つは通常「心」としてひとくくりにされています。この心のことをアンタカラナム(内的器官、内側の道具)といいます。プラーナとアンタカラナムの概念もとても重要です。別のページで詳しく説明しているので下記をご覧ください。

プラーナとは アンタカラナムについて

No.19 |5つの感覚器官とは?

5つの感覚器官とは何でしょうか?耳、肌、目、舌、鼻です。

解説

グロスボディーのレベルでいうと、目、耳などは目で見える器官のことを指しますが、サトルボディーを構成する感覚器官は目、耳などに備わるエネルギーのことです。例えば、窓から外の風景を見ていて、近くに鳥が飛んできたとします。鳥がかわいくてずっと見ているかもしれません。しかし、何か考え事をしていたら、ただボーっと風景を見ているだけで、鳥が飛んできたことに気づかないかもしれません。このように、肉体の目を使って外の風景を見れば、鳥が目を通じて網膜に映り込んでいるかもしれませんが、そこにサトルボディーの「見る」というエネルギーがないと、見えないのです。

No.20 |感覚器官に宿る神

感覚器官に宿る神々は何でしょう?耳には空間の神、肌には風の神、目には太陽の神、舌には水の神、鼻には双子の医者の神が宿っています。

解説

各感覚器官や行動器官は、神によって司られていると考えられています。同じ場所にいても、人間と犬の視力や聴力は異なるので、見え方聞こえ方は異なります。私たちは世界のありのままを知覚しているわけではなく、制限された能力の中で知覚しています。そのため、知覚するエネルギーは神からの恩恵と考えられています。ある警察は、その町の管轄ですが、それを管轄する県の警察がいて、さらにそれを管轄する国の警察がいます。そのように、感覚器官もそれぞれの神の管轄があります。全自動の機械も、人間がきちんと動くように操作しているのと同じように、感覚器官も自動的に私たちが使えているのではなく、それぞれの神によって機能しています。例えば、目は太陽の神が司っているため、目のトラブルは日の出にマントラを唱えながら太陽礼拝をすると良くなるといわれています。

No.21 |感覚器官の体験の領域

感覚器官の体験の領域とは何でしょうか?耳は音の認識、肌は触れる認識、目は形と色の認識、舌は味の認識、鼻は匂いの認識です。

解説

ここまでの感覚器官についてまとめるとこのようになります。

感覚器官
空間の神 風の神 太陽の神 水の神 双子の医者の神
機能 聞く 感じる 見る 味わう 嗅ぐ
認識の領域 触感 形、色 匂い
五大元素

No.22 |5つの行動器官とは?

5つの行動器官とは何でしょうか?スピーチ、手、足、肛門、生殖器官です。

解説

感覚器官は外の世界から受け取るために必要なものでした。行動器官は、感覚器官を使って自ら反応するためのものです。例えば、感覚器官は外の音を聞く(=受け取る)ことをしますが、行動器官は自ら反応するために「話す」機能があります。

No.23 |行動器官に宿る神

行動器官に宿る神々は何でしょう?スピーチにはアグニ(火の神)、手にはインドラ、脚にはヴィシュヌ、肛門にはムルットゥ、生殖器官にはプラジャーパティが宿っています。

解説

行動器官も、感覚器官と同じように神々によって機能していると考えられています。スピーチ(話すこと)は、よく火と関連づけられることが多いです。「熱のこもった演説」や、「議論がヒートアップする」などと使われます。

No.24 |行動器官の機能

行動器官の機能とは何でしょうか?スピーチは話すこと、手はつかむこと、脚は動くこと、肛門は排出すること、生殖器官は快楽(繁殖)です。

解説

ここまでの行動器官についてまとめるとこのようになります。

行動器官 スピーチ 肛門 生殖器官
アグニ(火の神) インドラ ヴィシュヌ ムルットゥ プラジャーパティ
機能 話すこと つかむこと 動くこと 排出すること 快楽(繁殖)

ここまでが、サトルボディーの説明でした。



No.25 |コーザルボディーとは?

コーザルボディーとは何でしょうか?定義ができない、始まりを知ることができない、無知の形で、グロスボディーとサトルボディーのたった一つの原因であり、自分の本質に無知であり、区別することができないものです。

解説

コーザルボディー(原因の体)は、グロスボディーとサトルボディーが現れる原因(=causal)となっている体です。潜在的な形で、表面化されていません。下記のような6つの特徴があります。

1.定義ができない

木の机があるとします。それは木でしょうか、机でしょうか?木でもあり机でもあるかと思います。次に、机を壊していったときに、どこまでが机で、どこからが木になるでしょうか?それははっきりと定義することができません。どこからが机、どこからが木、とはっきり言えないように、コーザルボディーもどこからがコーザルボディーなのか、定義することができません。

2. 始まりを知ることができない

何時にベッドに入ったかは言うことができますが、何時何分に深い眠りに入ったか言える人はいません。睡眠中は知性が働いていないからです。前の章でお話ししたように、知性はサトルボディーに属していて、コーザルボディーにはありません。そのため、認識できないので始まりを言うことができません。

3. 無知の形

無知には形も重さも何もありません。しかし、パソコンに対して無知というとき、そこにはいつも「私」の存在があります。私がいないと「無知」とは言えません。そのため無知は私がいないと存在できないミッティヤーになります。コーザルボディーもグロスボディーとサトルボディーに頼って存在するミッティヤーになります。

4. グロスボディーとサトルボディーのたった一つの原因

マンゴーの木はマンゴーの種からしか生まれません。それと同じように、グロスボディーとサトルボディーはコーザルボディーからしか生まれません。

5. 自分の本質に無知

知性が機能していない深い眠りの状態では、自分が〇〇である、という感覚はなくなります。そして何か新しく知識を得ることもありません。このように、知性が属していないコーザルボディーは、自分自身の本質に無知であるといえます。

6. 区別することができない

マンゴーの種があるとします。その中を見てみても、葉、木、果実などがあるわけではありません。いずれマンゴーの葉や木や果実となる要素だけが含まれています。一方で、マンゴーの木を見ると、葉、木、果実の区別をはっきり見ることができます。このマンゴーの種のように、潜在的な形をとり、区別のない特徴がコーザルボディーです。

続きの章からは、私たちが経験する3つの状態の説明をしていきます。

3つの経験について




次はこれを要チェック

タットヴァボーダ目次 ヨーガとは アーユルヴェーダの歴史 アーユルヴェーダの基本




『VEDANTA BOOK OF DEFINITIONS』 Swami Tejomayananda